旗袍(チーパオ)という言葉の指示問題

定義と研究
この記事は約4分で読めます。
スポンサーリンク

言葉と物

旗袍(チーパオ)の言葉と物は、重なったりズレたり。使う人によってごちゃごちゃです。少し交通整理をします。

もともと、服の言葉はややこしいです。服そのものと名前が一時的にしか一致しないからです。

たとえば、ズボン。いまはパンツといいます。どちらも下衣に脚が二つ作られている物ですが、この物(形)と名前の関係が時代によって変わります。

旗袍も同じことです。

旗袍と同じ形の服をすべて旗袍というべきかどうか。もちろん、言ってもいいし、それぞれの時代や地域にあわせた名前で呼んでもかまいません。

ただ、自由すぎると、シェアできることが少なくなって、誤解しやすくなります。同じことを話していたのに別のことだったとか、逆も然り。

何を何と呼ぶか、これが言葉の指示問題です。

スポンサーリンク

旗袍(チーパオ)という言葉の指示問題

日本のファッション辞典でも中国の国語辞典でも、旗袍は次のように定義されています。

  • 旗袍は満州旗人女性の着ていた服装の一種で、辛亥革命後は、漢族女性もよく着るようになった。
  • 1920年代以降、形はよく変わったが、一般的なスタイルは立領(スタンディングカラー)、右開きの大襟、タイトなウェスト、膝下の丈、両側に長くスリット、長袖か半袖。

しかし、いまや、専門家や学者の観点からは「旗袍」という言葉にはいろんな解釈があります。

しゃんつ
しゃんつ

日本で旗袍を研究している人は、この辺をちゃんと考えていないので、旗袍好きの方たちは大混乱していますよね。迷惑な話です。

とにかく、これらの解釈は二つに大別できます。

「旗袍」の二つのとらえ方

元傑英氏の説(清華大学美術アカデミー)

満州は「八旗」または「旗手」とよばれ、彼らが着る服も総称して「旗装」とよばれていました。満語で旗袍は「衣介」とよばれました。その形は世代間で受け継がれ、西周王朝の細いリネンのシンプルな筒装からはじまり、それから、元朝期モンゴル族女性の長装(ロングドレス)の影響も受けました。シンプルなHライン(ストレート)のボディは「旗袍」とよばれました。

包銘新の説(東華大学)

旗女の袍

旗袍旗女の袍を区別して定義しています。清代女性旗人が着ていた袍は旗女の袍のことで、この旗女の袍は2つの段階に分けることができます。

  • 前期…乗馬や射撃の生活様式に適合するため、「旗女の袍」は比較的薄くタイトで、小さな袖口とシンプルな装飾でした。
  • 後期…生活が安定したため、「旗女の袍」はボリュームをもつようになり、装飾は複雑になりました。

旗袍

中国女性の特徴的な一種の外衣。清王朝の旗袍から進化しましたが、旗袍は中華民国時代のものだけをさします。

包氏の定義は次のとおりです。

「清代の旗人の袍から変化したが、古代以来の袍服の影響もうけ、近代に人気が出ました。素材には、伝統的なシルク生地がよく使用され、縫製には镶滚(線入り縁どり)や刺繡などの伝統的な工芸が縫いつけられています。さまざまなスタイルがあります。領袖、襟、長い裾にスリットの高低など常に変化してきました。」

「旗袍」の二つのとらえ方は以下を参照しました。刘瑜『中国旗袍文化史』上海人民美术出版社、2011年、4・5頁。

暫定的な考え方

双方の違いは、「旗袍」の時間と空間にあります。私は「旗袍」という用語を広義と狭義にわけるのが無難だと思います。狭義の旗袍は、清代の旗人の袍から変化し、近代以降に女性の袍服として人気があったものです。広義の旗袍は清朝の満州旗人が着ていた袍服も含みます。

ぱおつ
ぱおつ

本や研究者によっては、狭義の旗袍を旗袍といい、広義の旗袍を旗装袍といいます。私はこれが無難かなと思います。清代の袍服を旗装袍、近代に人気の出た袍服を旗袍、これでいいんじゃないかと…。

注意点

ただし、気をつけなければならないのは、旗袍が1920年代に誕生したと断定して、言葉だけの問題にズラす考え方。冒頭に述べた日本の研究者がこの痛い例です。 言葉と物をわけたうえで、繋がることと繋がらないことを、きちんと考えていきましょう。

もう一つ注意したいのは、男性の袍服によく使われる「長衫」という言葉です。服の形は長袍、旗袍とともに同じですが、ふつう、清朝期には「旗装袍」「長袍」などが使われ男女の区別はほぼなし。民国期になると、男性の長袍に「長衫」、女性の長袍に「旗袍」が良く使われるようになりました。それでも、人や組織によって使い方はまちまちで、たとえば、香港大学図書館のデータベースでは、「長衫的時髦婦女」という言葉が使われています。

定義と研究
スポンサーリンク
ぱおつ
この記事の著者

旗袍好きの夫婦で運営しています。ぱおつは夫婦の融合キャラ。夫はファッション歴史家、妻はファッションデザイナー。2018年問題で夫の仕事が激減し、空きまくった時間を旗袍ラブと旗袍愛好者ラブに注いでいます。調査と執筆を夫、序言と旗袍提供を妻が担当。

この記事の著者をフォロー
このページをシェア
この記事の著者をフォロー

コメント

タイトルとURLをコピーしました