「花様年華」の旗袍に魅せられたコメント集
このページでは中野裕通氏と原田小百合氏のコメントを紹介します。
ウォン・カーウァイ(王家衛)監督が2000年に公開した映画「花様年華」は、旗袍がたくさん出る映画として有名です。衣装映画としても楽しめます。
スー・リーチェン(蘇麗珍)を演じたマギー・チャン(張曼玉)は、この作品で20着以上もの旗袍を着ました。着数は諸説があるので割愛しますが、20~30着ほどで収まります。
映画「花様年華」は2000年に公開されました。その後、チャイナドレスという言葉が日本で定着していったことを考えると、この映画でマギー・チャンが果たした役割は大きかったわけです。
中野裕通氏による花様年華の旗袍
ファッション・デザイナーの中野裕通氏は、この作品に出てきた全ての旗袍が、主演の張曼玉に似合っていたと称賛しました。
彼女に似合わないものが一切ない。普通、十何着あると必ず、似合わないものって何着かあるんだけど、「これちょっとムリだよ」っていうのがなかったんですよね(中野裕通「香港映画でこんなきらびやかなチャイナ服を見たのは初めてでした」小倉エージ編『ウォン・カーウァイ』キネマ旬報社、2001年、54ページ)。
また、中野氏は、全ての旗袍がマギー・チャン(張曼玉)の身体にフィットしていたことから、「これ全部作らせたんだと思うんですよ」(同上書、54ページ)とも感嘆しています。
そのうえ、この映画の旗袍がほかの香港映画・中国映画のなかで傑出した理由には、丁寧な採寸と仕立という作業以外にも、生地が良かった点を指摘しています。
ここでチャン・イーモウ(張芸謀)と コン・リー(鞏俐)の組み合わせ映画と比較した面白いコメントがあるので、以下に引用します。
香港の人って中国服をあんまり大切にしないんですよ。僕なんか香港に行って昔のチャイナ服を探したんだけど、「何であんなの探すの?」って言われるんですね。で、仕立屋さんに行ってもだいたい生地であるのがヨーロッパの生地なんですよ。だから今回は衣装も担当しているウィリアム・チョンが、かなり上手い探し方したんじゃないですかね。これまで中国映画の中でチャイナ服を見てても、…中略…こういうきらびやかな服って一切なかったですからね。チャン・イーモウの映画のコン・リーが着てるのを見てても、中国服いいなと思ったことは一回もなかったから(笑)。だから今回は本当にすごいと思う(小倉エージ編『ウォン・カーウァイ』キネマ旬報社、2001年、54~55ページ)。
上の引用で中野氏がいっている「チャイナ服」とは旗袍のことです。
中野氏のいうウィリアム・チョンとは張叔平(William Chang、ウィリアム・チャン)のことで、ウォン・カーウァイ監督のデビュー作「いますぐ抱きしめたい」(1988年)から「グランドマスター」(一代宗師、2013年)まで、美術・衣装・編集のほとんど全てを担当したファッション・デザイナーです。
台湾出身の女優であるブリジット・リン(林青霞)は、ウィリアム・チャン(張叔平)を安心できるただ一人の衣装担当だと称したことがあります。
原田小百合氏による花様年華の旗袍
原田氏はこの映画が映像や音楽によって官能性が引き立てられただけでなく、張曼玉の着た旗袍にもあると強調します。
潘迪華(Rebecca Pan)の旗袍も含めて30着ほどと数えています。
これら旗袍は、張叔平の母親が実際に1960年代に着ていた古着をリメイクしたそうです。
原田氏は「テキスタイルの質感や柄が当時の雰囲気を出しています」と述べています。
そして、この映画での旗袍には洋裁の影響が濃いとして、1960年代イギリス統治下の香港での職業婦人に相応しい旗袍だったと位置づけます。
他方、中国の伝統的な大円領(大きな丸襟)のハイカラーを指摘します。身頃に関する記述は珍しいうえ、詳しいです。
たとえば、胸元の打ち合わせが最小限に抑えられ、裏の隠しスナップで処理しただけの簡潔なものです。その分、生地には大胆な柄が使われています。
柄合わせは大変な作業だったようです。
前身頃、後身頃、肩線、領に柄合わせが行なわれています。また、かなり密着した旗袍を作る場合、採寸が40か所に及ぶという点が指摘されています。
領・襟の禁欲さにもかかわらず、この映画が絶妙な色気を醸し出している理由について、原田氏はマギー・チャンの「阮玲玉」出演後の感想をふまえ、内面に色気があるからと説明します。
「花様年華」ではマギー・チャンの何気ない仕草もあいまって、強烈な色気が吐き出されました。
「花様年華」の旗袍に魅せられたコメント集として、このページでは中野裕通氏と原田小百合氏のコメントを紹介しました。
もっと詳しく、両氏のコメントをお読みになりたい方は、ぜひ「ウォン・カーウァイ―期待の映像作家シリーズ」をご覧ください。
マギー・チャンが映画「花様年華」で着た旗袍をくわしくとりあげた記事もぜひご覧ください。
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