旗袍はコスプレイヤーにもイラストレーターにも大人気です。
ただ、残念なことに、チャイナドレスのコスプレを自称するコスプレイヤーの方たちの衣装はチャイナドレスじゃないんです。
最近は中華圏の方のコスプレが世界中で人気をもってきたので、チャイナドレスの正式名称「旗袍」のコスプレというように名前が変わってきていますが、その衣装が旗袍じゃないのは同じこと。
上のページに集まっているコスプレ写真は「旗袍」のものですが、旗袍の基本4要素のうち、斜めに開く大襟がないものが多いです。要素が欠けても旗袍だというならば、もう、あらゆるものを勝手に名づけてよいことになってしまいます。
もちろん、大襟がないことには正当な理由があります。旗袍のコスプレで胸を大きく露出するには、タイトなイメージの大襟が物理的に邪魔になるからです。
イラストレーターとコスプレイヤーの関係
どうしてコスプレ衣装が間違っているのかを考えると、衣装の参照元となるアニメや漫画が間違っているからだとわかってきました。
そこで、コスプレイヤーとイラストレーターの関係を少し考えました。イラストレーターが間違った衣装を絵に描いてしまうと、悪循環になります。
コスプレイヤーが間違った衣装を作ってしまったり、間違った衣装を製造販売するアパレル業者から、間違った衣装を買ってしまったりと、こういう循環になっているように思います。
もちろん、イラストもコスプレも「正しさ」を追求しているわけではないので、どんな衣装を旗袍といおうと、スカートをズボンといおうと自由なのですが、言葉と物との関係にもう少し敏感になってほしいなと思うんです。
そんななか、イラストレーターには真摯な姿勢をもつ方たちがいることも知りました。
イラストレーターの方々から学んだこと
旗袍の絵の動きひとつをとっても、本当にこの動きや姿勢ができるのか、イラストレーターには立ち止まって考える方々が多いです。
イラストレーターの方々の姿勢から、私は形をくわしく正確に伝える必要を学びました。
このページでは、少しでもお役に立てるよう、旗袍の動作がきわだつカンフー映画から旗袍の写真をまとめて紹介します。ギャラリーのカテゴリーに区分してますが、前置きの長いこと長いこと…。
直接触発されたのは、月*qhamarさんというイラストレーターとの会話です。
旗袍で激しく動いてる所を殆ど見たことが無く、どんな動きになるのか?と想像でしか描けず😭色々調べましたが、あまり無く💦
ぱおつさんの仰る通り、これで良いのかな?と悩みつつ描きました(>_<)💦
もっと本物に近付けるようにぱおつさんの掲載されてる物等を参考に、勉強させて頂きます✨— 月*qhamar (@qhamar_) July 25, 2021
旗袍をイラストで描くときの写真資料は意外と少ないそうです。
とりあえずいえるのは、ウォン・カーウァイ監督の「グランド・マスター」で使われている旗袍は、かなり丁寧で正確に再現されています。格闘シーンでも旗袍は大活躍で、イラストを描くときの動作の参考になるのではないかと思います。
服装担当はウィリアム・チャン。ウォン監督の映画で長らく衣装デザインを担当してきた人物です。
かなり前置きが長くなりましたが、いくつかの映画から、旗袍、スーツ、トラックスーツを比べて、運動性を想像したいと思います。
ジェイソン・ステイサムのサラリーマンスーツ
まず、アメリカのハリウッド映画などでよく出てくるアクションシーンを何か想像してみてください。
私の場合は、好きなジェイソン・ステイサムをいつも思い浮かべます。彼の格闘シーンですが、実はTシャツや半袖・袖なしなどが多く、スーツを着たまま格闘することは少ないように思います。
彼のアクションはとても爽快ですが、スーツを着た場面では、だいたい銃撃になっていたようにも思います。どなかた検証して教えてください(笑)。DVDをもっていないので確認しにくいです。
伸び縮みしないスーツを着て、どうしてジェイソン・ステイサムは袖や肩や背中などが引きちぎれないのでしょう。とにかく、上述したようなTPOをふまえて、引きちぎれないようなアクションをしているからです。
よくある格闘技服
ふつう、柔道や空手の道着でも、テコンドーの道着でも、カンフー衣装でも、スーツほどぴったりしていません。格闘技服の生地は、だいたい織物です。織物はニットに比べて伸縮性に乏しい。
ですから、格闘技服はふったりした作りになっています。もしピッタリしていたら、柔道をはじめ、投げ技がかけられないじゃないですか。
それでは、ピッタリした衣装で暴れまくったカンフー俳優のブルース・リーはどうだったでしょうか。
ブルース・リーのトラックスーツ
かつて、ブルースリーは身体にフィットした黄色のトラックスーツで映画「死亡遊戯」を演じました。あのスーツをリスペクトした映画「キル・ビル」でもいいんですが。
あのフィット感で暴れまくれた理由は、スーツの生地がニットだったからです。
ニットは織物より、はるかに伸び縮みのしやすい生地です。スポーツウェアにたくさん使われています。けっこうピチピチでも格闘技ができるわけです。
たとえば、バレーボールの長袖ユニフォームやフェンシングの全身タイツを思い出してみてください。これらは、すべてニット生地です。
チャン・ツーイーの連袖旗袍
さて、いよいよ旗袍です。
旗袍の動きを出すためには、まず、イラストに袖と肩が繋がっているかどうかを押さえてほしいなぁと思います。つまり、縫い目がない一枚の布で作られているかどうか。
最近は、繋がっているイラストを書いてる作品をよく見かけるようになりました ^o^!
次の2つの写真は、皺だらけでも腕のゆとりがたっぷり。
数年前までは酷かったです。
接袖(セットイン・スリーブ)にしておいて、中袖か長袖の旗袍でどうやって戦うんですか。次の写真はかなり引きつっていますね。
上の写真の皺のあり方を3つともよく見てください。皺は、旗袍のイラストを描くときにあまり大事にされてきませんでした。
さて、むかし、ストリートファイターIIのチュンリー(春麗)のように、接袖でカンフーをやっているイラストがとても多かったです。2000年代から2017年ほどまでの旗袍のイラストは、チュンリーをモデルにしていたんだと思います。
最近は、チャイナドレスという名前があまり使われなくなり、旗袍という言葉がよく使われるようになりました。この関係か、中袖・長袖でも連袖タイプを使っているイラストが多いので、旗袍ラブとしては嬉しいかぎりです。
チュンリーの接袖旗袍とスリット
上肢運動に向いていない接袖(セットイン・スリーブ)はパンチにふさわしくありません。でも、チュンリーの場合、半袖ですからから肩あたりの引きつりは少なく済みます。
また、彼女は足蹴りが得意でパンチはあまり威力がありません。ですので、袖つけは副次的にしか大事になりません。
というのが、まぁストリートファイターIIでチュンリーのファンだった私としては、言い訳めいてディスりたくないわけです。半袖がポイント(笑)。
ただ、改めてチュンリーの衣装をみてみると、連袖のような気もします。接袖のような縫い目を確認できません。とはいえ、連袖のままパフスリーブのように袖を膨らませているのは、技術的には不可能です。
それでも、ジェイソン・ステイサムに立ち返ると、長袖なんですよね、おまけにピチピチのスーツの。
チュンリーに戻ります。
ストリートファイターのチュンリーで大事になってくるのはキックです。旗袍でできるのでしょうか。
それで、スリットの深さをちょっと考えてみましょう。
チュンリーのスリットは、かなり深いです。
直立時点でこの深さ。コスプレイヤーでもなかなかチャレンジできないんじゃないでしょうか…。
そして、脚を上げた時点で、こうなります。
改めてふりかえると、チュンリーの旗袍は、立領、大襟、スリットの3点はありますが、チャイナボタンがなくて、おまけにお腹を帯で巻いています。まぁまぁの旗袍というところです。
チュンリーの場合、スリットは前掛けほどの役割かと…。ケリが十分出せるのはわかりました。
結論:イラストで格闘風に旗袍(チャイナドレス)を描くコツ
ポイントを押さえず、だらだらと書いてしまいました。
ここで、まとめ直します。
- かなりリアリティを出すには、皺の出る場所や出方に注目する。
- 袖つけが連袖のとき…腕を上げても、背中や脚が引きつられないので、自由に描きやすい。半袖から長袖まで可能(布の付け足しが必要な場合あり)。
- 袖つけが接袖(セットイン・スリーブ)のとき…腕を上げると、背中や脚が引きつられる点を意識する。もともと接袖はスリムにみせる設計なので、長袖の接袖はほぼありえない。
- スリットの深さ…深めにすればするほど、ハイキックがしやすい。ただし、袖つけが接袖だと、キック時の姿勢によっては上半身に引きつりがおこるので、派手な動きは嘘くさくみえる。
1つ目の皺や2つ目の連袖については、こちらもご参照ください。
おわりに
イラストは自由気ままに書いていいという条件ですから、どんな旗袍を描いてももちろんいいわけです。
でも、イラストレーターの方々は、できるだけ忠実に場面を再現しようとされます。その真摯な姿に、最近、私は共感を覚えるようになりました。
旗袍と同じような形をぜんぶ含めた名前は袍服です。古代から袍服は織物で作られてきた長い歴史があります。
清朝期から民国期になって、旗袍は綿入れや袷の習慣がなくなり、軽量になりました。
それでいて、スーツよりゆとりがあるので、カンフーをしようと思えばできるわけです。できれば連袖、そしてスリットは深め、これであなたもチャンピオン♪
最後に、連袖と接袖の運動量の違いについて、いくつかコラムを書いています。そちらもあわせてご覧になってみてください。
コメント