旗袍を有名にした映画「花様年華」
旗袍を有名にした映画といえば、ウォンカーウァイ監督の「花様年華」(2000/香港・中国)です。
デザイン担当はウィリアム・チャンでした。
主演女優のマギー・チャンが着ていた衣装はひたすら旗袍だけ。
約25着のチャイナドレスを着ました。
この映画をマギー・チャン(張曼玉)や旗袍からみると、いろいろとツイートされています。
- マギー・チャンと言えば、花様年華
- 旗袍の着こなしから目が離せない
- 旗袍といえば、香港映画の『花様年華』も外せない
- 高い襟が特徴の花様年華スタイル
- 独特のハイカラー(高い立領)がここまで似合う人も珍しい
- チャイナドレスの襟の高さとセクシーさよ
- 伝統を押さえつつモダンで美しい
おおむね、マギー・チャンがこの映画で着たチャイナドレスの数は約25着ですが、映画ファンのあいだで着数はまちまちです。
私の数えたかぎりでは、マギー・チャンが着た旗袍は22着でしたが、このページで紹介した旗袍は12着です…。
半分近くがキャプチャできていない状態…。
マギー・チャンが「花様年華」で着た旗袍
まずはナルト柄の旗袍。
ノースリーブとスリットが特徴的な場面です。
映画の冒頭でマージャンの場面がありました。たまにスローモーションになって部屋を出入りする映像が印象的です。
椅子に座ると旗袍のスリットがこういう風に開くのかと、よくわかります。
ナルト風旗袍のアップはこちら。
このナルト風旗袍は、人によっては渦巻き旗袍や蚊取り線香旗袍とも(^^)
スリットつながりでは、これが一番セクシーだったでしょうか。
次はチャウ・モウワンへ本を返す場面。
このアングルは「花様年華」でよくありましたね。
ダイヤ柄で、薄緑色。かなり高い立領とノースリーブ、それに大襟が珍しくはっきりわかる場面です。
ヘアスタイルは、後頭部のボリュームがめだちます。
大襟をまたいでダイヤの線が続いているところに、仕立の上手さがあります。
同じアングルでも、旗袍や状況が違えば、こんな表情にも。
本を借りたり返したり。
チャウ・モーワンが不在のときも多く、互いの配偶者の動向も影を落としています。
ヘアスタイルは、後頭部のボリュームがやや小さめ。
この旗袍はグレーというよりメタル風の色で、派手な柄ですが重みを感じさせる生地。
立領の高さは相変わらず。ノースリーブじゃなく半袖。さっきの場面よりもさらに真横なので、痩せた胸元がくっきりしています。
同じ旗袍でアパート地下のレストランへ買いだしに行ったりも。
高い立領といえば、次の写真もなかなかのものです。
これは、さきほどみた、スリットのセクシーな旗袍です。
次の旗袍は、アパートのなかでたまに出てきました。アパートの地下へ食べ物の買いだしに行くときもよく着ていました。
立領は高いですが、他のドレスにくらべて前中心が曲線になっていて、緩い印象。
カラフルな経縞(縦縞)の地味な生地です。大襟をまたいでも経縞がほぼ一直線になっているのがカッコいいですね。
この件は、次の写真をみれば、さらにわかりやすいです。
大家のレベッカ・パン(潘迪華)とすれ違ったりお喋りしたりする場面でちょこっと。
日常着の旗袍もおしゃれです。全体像は次。
次は職場での旗袍。半袖。
この旗袍を着て、マギー・チャンはひたすらタイプライターでタイピングしていた印象。
この花柄が一番、鮮やかだったかな…。
それにしても、これだけ高い立領で、うつむいて仕事ができるもんなんですね。
領の前は低め、後ろが高め。だからうつむけるんですね。
仕事には、こんな旗袍も着ていましたね。
ノースリーブで油絵風の柄。
見えにくいですが、スリットが太腿の真ん中くらいまで入っています。
後はこんな感じ。黄色のハイカラーが格好よくて、おまけに涼しそう。
とにかく、こんな部下がいれば、私なんぞは仕事に集中できません。
次は、束の間の逢瀬の場面。
紺色の太い花柄レースを大襟にもってきた次の旗袍もありましたね。
白地なので肩縫線もはっきりみえて、重厚に感じます。
正面も高い立領、けっこう食べにくそうです。
さて、逢瀬は続くよいつまでも?
ある晩の逢瀬からの帰り。
分かれた後の切なさを引きずった場面。派手な花柄旗袍もおとなしく見えます。
心ここにあらずという雰囲気で、背景の壁や手前の柵が後押しして、どこか亡霊のよう…。
久しぶりにチャウ・モーワンから職場へ電話が入り、会うスケジュールを調整中。
白地に黒い大きな花柄の旗袍。
この旗袍では、半袖と大襟にて、柄の連続はこだわっていません。
上手なのは大襟のところで、花柄が切れないように裁断されているところ。
こうすると、花柄の連続を意識して作る手間が省けます。
さっきと同じ旗袍です。
赤いコートを着て、チャウ・モーワンの借りている書斎へ。
高い立領も、手前は低めにデザインされているので、それほどキツそうではありません。
タクシー飛ばしてダッシュしましたが、結局、スー・リーチェンはチャウに会えませんでした。
この白黒の旗袍に、黒髪に、赤いコートに赤いカーテンに赤い口紅という、極端づくしの一場面。
「花様年華」が集約された瞬間だったように思います。
次の場面は、1963年にスー・リーチェンがチャウ・モンワンを追ってシンガポールへ行ったところ。
シースルー(トランスペアレント)の半袖旗袍でしょうか、今になって初めて気づきました。
大襟を飾る刺繍は後ろまで続いています。
後ろからみると肩にドレスをかけているようにも思えますが、2着というわけでもないでしょうから、胸部と背中上部にシースルーをつけた特別な生地なのでしょう。
場面がシンガポールなので、かなり薄地にしたという感じでしょうか。
映画「花様年華」の旗袍
映画「花様年華」でのマギー・チャン(張曼玉)の配役はスー・リーチェン(蘇麗珍)。
監督はウォン・カーウァイ、撮影はクリストファー・ドイル、美術はウィリアム・チャンです。
映画の物語が非常に禁欲的なものであり、高い立領(たてえり)で緊密性の強いシルエットの旗袍が合致しています。
ファッション的にもこの映画の人気は高いです。
この映画の旗袍は高い立領で首を覆っていますが、横のスリットから太腿が見えます。
女性は控えめであり魅惑的です。
マギー・チャン演じるスー・リーチェンの冷たさと熱さが相まって、相方の新聞記者にはサディスティックにふるまっていると指摘したエッセイもあります。
デザイナーの中野裕通氏は旗袍のでてくる映画を見たおしたといいます。
「花様年華」で着られた旗袍は、他のどんな映画よりも鮮やかなデザインだったと絶賛しています。
「花様年華」の舞台は1960年代香港
この映画の監督ウォン・カーウァイは、「花様年華」の旗袍について次のようにコメントを出しています。
≪以下の項目は、姜鑫编 春光映画 王家卫 中国广播电视出版社出版 2004年≫、152~153頁<由旗袍開始>を翻訳・補足したものです。
これはウォン・カーウァイ監督の映画「花様年華」を述べたエッセイで、同監督の作風に触れながら、1960年代香港に成立した花様年華の意味をうまく捉えたものです。
香港の旗袍に特有の意味を感じてください。
質問:なぜ1960年代香港なのか
「花様年華」は1960年代の香港を背景にしています。
当時の世界や香港で起こったニュースのどれ一つとして、この映画と関係がありません。
それでもどうして1960年代なのでしょうか?
映画中の“香港”
映画中の“香港”。
新聞社、レストラン、ホテル、アパートなどの室内光景以外、他はすべて香港以外の場所で撮影されました。
つまり、1960年代でもなく香港でもありません。
しかし、観衆は「60年代の香港」に対する平面的な感情を投影したわけです。
マギー・チャン(張曼玉)が最初から最後まで旗袍しか着なかったのと同じことです。
マギー・チャンのスタイル
「花様年華」は“旗袍”からはじまったと思います。
マギー・チャンのスタイルがあったからこそ、他のすべてが存在したわけです。
まず、1着目の旗袍があって、そして彼女には2着目、3着目と繰り返し着せることしかできません。
配役の身分、立場、センス、経済能力に関わらず、とにかく次から次へと、まるでファッションショーのように着替え続けます。
比喩としての旗袍
もちろん、“旗袍”は比喩です。
つまり、旗袍の持ち主は外見を借りて外界からの視線を逸らせます。
それと同時に一連の内容に関する疑問を回避します。
たとえば、心に大きな花が咲いたり、少し経てば眩しい位に鮮やかな緑だったり。
皆さんはもはや秘書のスー・リーチェン(蘇麗珍)が服を着ているのか、それとも張曼玉が旗袍に着られているのか、考える余裕すらなくなります。
しかし、多くの評論家は「花」の良さを“含蓄”だと述べました。
この称賛には他意があるかも知れません。
主人公の男女の性的描写は有りませんでした。
このような処理が受容された原因は1960年代に一夜限りの恋と不倫の恋がまだ流行っていなかった点にあります。
ウィリアム・チャンの語る「花様年華」の旗袍
ウォン・カーウァイ監督「花様年華」の旗袍はウィリアム・チャン(張叔平)がデザインしました。
『焦點美指:張叔平 WILLIAM CHANG Art Director』に『花様年華』の旗袍に関するチャンのインタビュー記事があるので、紹介します。
旗袍は「花様年華」の重要な一要素である
1960年代の上海移民たちはファッションに意識的でした。
金持ちも貧乏人も素晴らしい衣服を着て、自身を最高に見せようとしたものです。
だから、蘇スー・リーチェン(蘇麗珍)は、いつも完ぺきに化粧をして、素敵な衣服を着ていました。
彼女の派手な衣装は、実際、人物の弱点と葛藤を強調していると私は思います。
その理由は一つ、旗袍はさらに花開くはずだから。
私たちは、この映画でたくさんの旗袍を用意しました。
リハーサル後に、私は場面に合う旗袍を選びました。
私は平民の美しさではなく下品さを目標にしましたが、観客は下品さを美しいと感じたのです。
旗袍は大きな関心事になった
観衆のなかには、秘書の金銭力であんな多くの綺麗な旗袍をワードローブへ入れられないと思う人たちもいました。
でも、最近では一人の人間が40着のTシャツを持っていることも不思議ではありません。
それらが衣装ダンスにある唯一の品目だとしたら。
安い生地は高価な生地と同じで、高価な生地が必ずしも素晴らしくみえる訳ではありません。
人目を気にするな、これは私の個人的な経験に一致します。
スリットがかなり高い
いえ、違います。
それほどスリットは深くありません。
バカな女性だけが高いスリットの旗袍を着ます。
私にはよく分かりません、なぜ今日の旗袍は長いスリットをしているのか。
成熟した女性は私に話したことがあります、高い立領(ハイカラー)の旗袍を着たことがないと。
問題は人の首が決めるということです。
高領は細い首に合います。古い広東映画のPatsy Ka Ling(嘉玲)を見てみなさい。
あなたはいつも同じ仕立屋を使うか
私たちはCauseway Bay(銅鑼湾@HK)の仕立屋に依頼し、「花様年華」用の旗袍をすべて作らせました。
しかし、質が違って10着中8着くらいの縫製が酷く、ちぐはぐな寸法でした。
「花様年華」の旗袍を作った朗光時装
「花様年華」や「グランド・マスター」の旗袍をデザインしたり美術指導したりしたのはウィリアム・チャンですが、実際に裁縫をして製作したのは、香港のドレスメーカー「朗光時装」(朗光時裝)とマスターの梁朗光氏。
私自身、長いこと梁さんのことを知らなかったので、少し調べてみました。
インタビューをいくつか見つけたのでリンクしておきます。3つ目の記事をみると、マギー・チャンが着た旗袍は26着。梁朗光は突貫で20人ほどの裁縫師を集めて1着3日のペースで旗袍を作りまくったそうな…(誤読があればすいません)。
- 《花樣年華》背後的旗袍師傅 — 梁朗光 - 華服學堂 : 華服學堂
- 旗袍大師梁朗光 一手縫製絕代風華 – 光明日报
- 70歲爐火純青 86歲開班傳承 旗袍大師 巧手縫製花樣年華 - 20200210 - CULTURE & LEISURE - 明報OL網
公式サイトや公式ページはこちらです。
- 朗光時裝 Long Kong Ladies' Tailors (Facebook)
- Leung Long Kong 朗光時裝 (Instagram)
インスタグラムのプロフィールによると、
Leung Long Kong, the Hong Kong tailor who made iconic cheongsams for the acclaimed films <In the Mood for Love> and <2046>(朗光時装は香港のテーラーで、アイコニックな旗袍を抜群の映画「花様年華」と「2046」に作りました。
と…。
いつか妻を連れて香港へGOGO!!
最後に、「花様年華」のスー・リーチェンを演じた女優マギー・チャンについて、ファム・ファタルの観点から考察したブログを紹介いたします。
あわせてご覧くださいませ。
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