旗袍の袖づくり(連袖旗袍と接袖旗袍)
旗袍には、民国期まで主流だった連袖という袖形成と、民国期から導入されていった接袖という袖つけがあります。
- 連袖は1枚の布で袖を形成するので、袖つけではありません。よく裁ちだしや袖だしといわれます。
- 接袖はもともと東アジアにないもので、ヨーロッパから入ってきました。袖と身頃(と肩)に分けた布のパーツを縫い合わせるので、袖つけといいます。
下の写真のように、左の連袖は竿に釣るすと皺(シワ)がなくなり、自然な状態になります。このため、詳しくは平肩連袖といいます。
これに対し、右の接袖はハンガーやトルソーに掛けると皺(シワ)がなくなり、自然な状態になります。このため、詳しくは斜肩接袖といいます。
平肩連袖
平連袖、平袖ともいいます。適当な英語も日本語もないので、ふだん私は「plain sleeve」か「continuous sleeve」と言っています。連袖は服を床に伸ばすと肩が水平になります。
次の写真のように、平肩連袖の旗袍では、身頃と肩と袖が同じ布でできています。裁たれていないので、もちろん、縫い目がありません。
次の斜肩接袖もふくめ、裁断図や機能の違いなどはこちらをご参照ください。
斜肩接袖
いわゆるセットイン・スリーブです。
セットイン・スリーブ(set-in sleeve)とは袖つけの基本形。基本といっても西洋から入ってきただけの話ですが。だいたいの服に使われている袖つけです。
肩から脇にかけて縫った場合の袖、または袖つけ作業をさします。縫い目はほぼ垂直になっています。英語でset-in sleeve(定型袖)、attached sleeve(付設袖)。
アームホールと密接に関連
辞書類では「正常なアーム・ホールに設置」というように説明されることが多いです。
アームホール(arm hole)とは身頃(胴体)に腕を通す穴を意味します。セットイン・スリーブでは衣服の肩と腕の境目に縦のラインが入っています(下図参照)。
アームホールの形
アームホールをトルソー(ボディ)の横からみるとオニギリのような形になっています。パターンを引く時にも綺麗なおにぎり型を作ると設計や裁縫が上手くいくといわれます。
旗袍の斜肩接袖とアオザイのラグラン・スリーブ
清朝期の旗袍から影響をうけたベトナムの民族衣装アオザイの袖をみましょう。いまのアオザイの袖はラグラン・スリーブといい、首元から脇へ縫いあわすラインになります。つまり、首中心から斜め下に縫い目が生じています。
次の写真をご覧ください。
ラグラン・スリーブは、旗袍の八字襟に似ています。
少し違うのは、八字襟が前身頃をぜんぶ開くのにたいし、ラグラン・スリーブ(raglan Sleeve)は片側(だいたい右身頃)が開きます。なかには、八字襟と同じように前身頃が全開するのもあるかもしれません。
見えにくいですが、次の写真は右前身頃にスナップが付いています。
現代旗袍の斜肩接袖と現代アオザイのラグラン・スリーブを比べると、立領やタイトさが同じ一方で、スリーブの運動性が異なります。斜肩接袖には運動性が少ないですが、ラグラン・スリーブはバレーボールのユニフォームのように高い運動性があります。服の袖という点だけでいうと、ラグラン・スリーブも平肩連袖も前からみれば同じです。
ただし、背中からみると、違うんです。
次の写真は同じアオザイの背面。
平肩連袖の旗袍も斜肩接袖の旗袍も、背面に袖つけのラインはきませんが、ラグラン・スリーブのアオザイは、前面と同じような角度で、背面にもスリーブのラインがきています。
なお、斜肩接袖は肩のラインが水平に近いため、肩幅の広い人に似合います。ラグラン・スリーブは肩のラインが斜め下へ落ちるので、肩幅の狭い人に似合います。この点は平肩連袖にもいえます。
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