現代旗袍は丈が短くなったことと、スリットが尻臀にまで深まってきたことが特徴です。
これらの方向性は1920年代から見られた長短・深浅の延長線上にあります。
つまり、旗袍の洋服化がいまも進んでいます。
西洋と中華が一体化することをよく中西合壁(中西融合)といいます。20世紀の旗袍史は洋服と旗袍との中西合壁そのものでした。現代旗袍は今もこの枠組みに収まっています。
現代は時代区分が難しいですが、世界中の歴史家がこの問題に立ち向かっていません。私は民国旗袍が現代旗袍を包み込んでいるイメージです。人類がもってしまった哀れな≪永遠の革新≫です。
なんでも現代に放り込んで自分の研究時代を固守するんですよね、歴史家って。これも哀れ。
時期区分に言及した文献の一例を挙げます。槍玉に上げる感じで恐縮ですが、痛い…。蔡珍珍「“旗袍”与“奥黛”比较研究」太原理工大学、修士論文、2014年、16頁。
ファッション歴史あるあるのデザイナー説です。
1978年の中国で改革開放がはじまり、1980年代に中国政府が旗袍の普及を推進し、新進気鋭のデザイナーたちが活躍し、1990年代に海外のデザイナーたちも旗袍をモチーフにとりいれました。
ん?じゃあ1978年の前に旗袍のデザイナーはいなかったんですか?民国旗袍はデザインがなかったことになりますよ。
とりあえず、現代旗袍は1920年代から続くものだとお考えください。
このページでは、具体的に旗袍の洋服化や中西合壁(中西融合)がどのように進んでいるかを確認します。
附属品を含めた中西合壁
附属品を含めた中西合壁を見ましょう。
既に述べたように一つ一つ留めていたチャイナボタンの着衣作業はホックやファスナーで代替されるようになりました。
極端な事例は次の写真です。
また、戦後の香港で見たように、スリット部分のファスナーももちろん、今では大襟部分全体をファスナーにしたり、後身頃を二つに割ってファスナーを付けたりと、着やすさが追求されるようになっています。
この写真は現代旗袍の一例です。
素材はレーヨンとヴィスコースです。商品詳細には「Hidden zipper at back」とあります。
この作品を後から見ると次の通りです。後身頃真ん中がくっきりと割れていることが分かります。襟元から腰辺りまでジッパーを上下させて着脱します。
また、このページでは紹介しませんが、現代旗袍の中には大襟を止めて中襟にする旗袍も出ています。
そうすると領が立っているだけで旗袍と呼べるのかどうかという問題が出てきます。つまり、旗袍の定義が崩れてしまうわけです。
その意味で現代旗袍は行き場を失い、単に雑になった気がします。民国旗袍(近代旗袍)の方が多様で深みがあったように感じます。
次に紹介する生地を含めた中西合併が行きつく所でしょうか。
生地を含めた中西合壁
たとえばサンフランシスコで活躍するデザイナーのセシリア・チィエン(Cecilia Chiang)。
彼女の作品は旗袍の不変要素(立領・大襟・スリット)をベースにした作品がほとんどですが、ヨーロッパへ旅行する度に現代風の生地をよく購入します。そして仕立屋に指示して縁飾りや刺繍を加えたり、着古されたアンティークなガウンから切り取った部分を加えたりしています(以上、Saks show celebrates Lunar New Year with clothes designed by Cecilia Chiang – San Francisco Chronicle)。
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