どう見る?中国で広がる漢服ブーム:人民網日本語版より
人民網日本語版をはじめ、中国のメディアは近年の漢服ブームによく言及しています。
近年、中国では漢服が大流行し、街中や公園、観光地だけでなく、書店や博物館などでも、髪をアップスタイルにし、漢服をなびかせる女性らをしばしば見かける。人民日報海外版が報じた。http://j.people.com.cn/n3/2020/0828/c206603-9739286.html
近年の漢服は外出着として人気があります。写真映えするために書店や博物館へ行って古風なイメージを加えることもあります。
このような状況のもとで、2020年のコロナ禍で結婚式を予定通りに行なえなかったカップルたちを取りあげた次の記事が象徴的です。
江蘇省南京市の新婚カップル20組が5月20日、莫愁湖公園で「愛に満ち憂い無き建鄴」漢服合同結婚式を行った。式では、新郎新婦が揃って天地を拝する「拜堂」の手を洗い清める「沃盥の礼」、ひょうたんを2つに割った杯を合わせて縁固めの杯を交わす「合卺の礼」、新郎新婦の髪を切って結び合わせる「結髪の礼」など伝統的な儀式が次々と行われ、「幸福の道」への第一歩を踏み出した。中国新聞網が伝えた。http://j.people.com.cn/n3/2020/0521/c94638-9692720.html
漢服が普段着用に着られて、イベント衣装や結婚式衣装に着られないわけではないことがわかります。漢服にはラフなイメージがありますが、結婚式に伝統的な儀式を行なうことから、必ずしもインフォーマルの側面だけから近年の漢服を考えることはできません。
他方で、現代社会は服装面からみるとルーズになっています。これは20世紀にたいする21世紀初頭の特徴だといえます。
20世紀の中国民族衣装の旗袍と近年の中国民族衣装の漢服とを比べて考えてみましょう。
それぞれ何がルーズなのでしょうか。
漢服の流行要因
中国では20世紀の民族衣装として旗袍が長らく着られてきました。21世紀初頭から民族衣装は漢服に移行してきました。
移行というのは趨勢であって、同一人物が旗袍を脱いで漢服を着るようになった訳ではありません。旗袍を着る年配の人数が減って、漢服を着る若年層が増えたということです。
アイデンティティの揺れ
ですから、中国の民族衣装が旗袍から漢服へと変わったわけではありません。むしろ、中国の民族衣装は何かという問題が、現在、中国にアイデンティティをもつ人たちに生じたと私はみています。とくに若い世代の中国人が旗袍を民族衣装や伝統衣装と考えにくくなっているようです。
世代間ギャップと感覚疲労
20世紀に着られた旗袍は世紀前半には女子学生から大人まで幅広い年齢層をカバーしていました。これに対して20世紀後半は香港・台湾・中国大陸の多くの地域で年齢層の高い人たちだけが着るものになりました。時代とともに世代がズレたわけです。
20世紀後半の若者は徐々に人民服や洋服へと移っていきました。21世紀になると旗袍をはじめ人民服や洋服を着ていた世代と違う世代が出てきます。90年后と呼ばれる世代です。
「2020漢服消費動向洞察報告」によると、天猫(Tmall)で漢服を購入している人のうち、女性が約8割を占めている。そのうち、「90後(1990年代生まれ)」と「95後(95‐99年生まれ)が主力だ。漢服市場では、「漢尚華蓮」や「重回漢唐」、「如夢霓裳」などの人気ブランドも生まれている。http://j.people.com.cn/n3/2020/0828/c206603-9739286-3.html
今の若者たちは両親や祖父母の世代が着用してきた20世紀の服装に対し、感覚疲労を起こしています。それが漢服の新しい流行要因の一つです。
そういえば、ミシンの多国籍企業で有名だったアメリカのシンガー社は、1890年代・1890年代に中国上陸を目論みました。でも、タイトな服しか縫えないと思われ、たいして売れませんでした。
旗袍と漢服の値段の違い
2000年代まで旗袍は安めの既製服と高めの仕立服に棲み分けられていましたが、だんだん既製服がコスプレ衣装に限定されてきました。
コスプレ衣装は露出度を高めるので素材コストが低く、大抵の衣服は格安になっています。旗袍でも同じこと。
そこで、既製服で付加価値をつけていくには、少し素材コストをあげる必要があります。そこで出てきたのが露出度の低い漢服です。トータルウェアにすることで、漢服はそれなりに稼げるものになりました。
若い学生たちに漢服を着る人が急増してるのはコスパの良さでしょう。安い割に布が多い。
唯一残る問題は生地の素材です。シルクで漢服をトータルコーディネートすると、そこそこ値段が高くなる気がしますが、その辺の詳しい事情は私には分かりません。
2000年代の旗袍と漢服
すでに2000年代に旗袍はイベント衣装になっていました。この現象は中国大陸だけではなく台湾や香港などでも確認できることです。レストランのウェイトレスや結婚時の新婦が着る衣装となっていました。
旗袍は比較的タイトな衣服です。2000年代からイベント衣装に加えて、旗袍はミニスカート化(ミニドレス化)することでコスプレ衣装としても着られるようになりました。コスプレ衣装として旗袍は世界中で人気を得ます。
このコスプレ衣装となった旗袍に対して、別の場面でも着られる衣装として出てきたのが漢服です。これも2000年代のことです。
06年に設立された「重回漢唐」は、中国初の実店舗を構える漢服専門ブランドだ。06年に1号店がオープンした後、今では、中国全土20都市以上で約30店舗を展開するまで拡大しており、その成長は漢服産業台頭の証となっている。昨年、「重回漢唐」の売上高は1億元に達し、ここ3年で10倍の成長を実現した。http://j.people.com.cn/n3/2020/0828/c206603-9739286-3.html
この記事は2000年代に漢服が流行してきたことを示しています。当初は旗袍と似たイベント衣装だったでしょう。
イベント衣装とコスプレ衣装とは、どう違うかと問えば、意外に答えは難しいのですが、旗袍は、年配の方のイベント時に、まだまだ人気があります。
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2010年代の漢服
しかし、2010年代に漢服の流行は拡大しました。冒頭に引用した記事では、2010年代に用途が変化した点を述べています。つまり、2000年代に対して、2010年代の漢服は日常着つまり普段着として着られるのが多くなりました。
漢服は唐服であろうと明服であろうと、時代を問わずゆったりしていて、隙間やゆとりの多い衣装です。悪くいえば隙がある服ですが、しっかり帯を締めれば、同じルーズな和服と同様に、前近代のようなだらしなさは減ります(和服は襟元が相変わらず弛んでますが)。
漢服はゆったりした点でルーズなのです。他方で旗袍はミニドレスになりましたので、セクシーさとセットになっただらしなさという意味でのルーズさをもつようになりました。
ルーズな漢服を若者が愛用する理由
漢服のルーズさは、世代的にみると若者に向いています。また、若者向けの漢服としてアパレル業界が動いたという相互作用もあります。
ツーピースやアンサンブルを堪能できる漢服
妻がいうには上下で遊べるから漢服は面白い、そんなメリットもあります。旗袍はワンピースですから、上にカーディガンを羽織るなどしても、組み合わせ(アンサンブル)を楽しむことが難しいです。
ワンピース本体の生地デザインや上半身に付けられるチャイナボタンを楽しむことからして、ツーピースで着用するというのは副次的な関心になります。
これに対して漢服はツーピースやアンサンブルが前提ですから、上下の組み合わせを楽しめます。そして上は上、下は下の柄も楽しむ点で、漢服は普段着または外出着としての楽しみを捉まえたわけです。
ヘアスタイルを堪能できる漢服
もう一つ大切なのは、漢服は旗袍と違って髪型を色々アレンジしやすい点です。もちろん、漢服も旗袍も、ロングヘアのまま髪をアップしても似合いますし、ショートヘアでもカッコいいです。
しかし、旗袍の場合は立領が強調されますから、ヘアスタイルは立領を邪魔しないための副次的な事柄になります。これに対して、漢服の場合には、立領のタイトさがありません。アップにした場合でも横の髪は下ろして良いですし、簪(かんざし)をいろいろ変えて楽しめます。
このように、漢服は上衣と下衣の組み合わせに、髪型を加えたスリーピースで遊べるわけです。このような組み合わせの遊びはインターネットの普及と相まって無数に紹介されています。
動画サイトの普及により、漢服を着ることのできるさまざまなシーンがリアルな形で提示され、漢服と一般の人の距離が縮まった。Bilibiliや抖音、快手などのサイトには、漢服を着たシーンや着用スタイルが数え切れないほどある。http://j.people.com.cn/n3/2020/0828/c206603-9739286-2.html
漢服と旗袍の民族衣装性
漢服ブームの理由は
- 20世紀に人気のあった旗袍・人民服・洋服に対する感覚疲労。
- 新しいコスプレ衣装とイベント衣装。
- ヘアスタイルや他のアイテムと楽しめる組み合わせ。
に集約されます。
私は旗袍を民国期の雰囲気で見たりするのは好きですが、民族衣装となると結構問題があるというか、位置づけが難しいです。
20世紀、中国の民族衣装はほとんど旗袍と決まっていましたが、21世紀になって緩んでる気がします。かといって漢服が民族衣装になるかというと、どの時代の漢服にするのかという問題もあって、私自身は民族衣装が複数あっていいと思っています。
漢服を着て外出する行動に理由をつけたがる人たちが多くいます。その理由の多くは、これまでの旗袍に対して、漢族の服だから漢服を着るという理屈です。
旗袍は満族の衣装だったのでしょうか。
いえ、違います。旗袍は1920年代に名前と形が決まってから、漢族も着ていました。
旗袍は清代の満族に起源するでしょうか。
いえ、違います。清代旗袍は、明代のモンゴル族の衣装を起源にしています。
旗袍を満族の衣装だと決めつけて漢服でコスプレをする人たちは、何に対するアンチで漢服を着ているのか、自分たちでわかっていないのです…。自分が漢服を着ることの言い訳をしているだけです。
漢服を着て外出することに言い訳は要りません。
いまは多言語多文化主義のグローバル社会。この時代に民族を理由にするのは間違っています。着たければ着ればいい。
民族を理由にする発想は、漢服コスプレに固執する人たちが最も嫌う20世紀の発想だということを若い方たちに知ってほしいです。
まぁ、人間は一番嫌うものを一番愛してしまう矛盾をよく犯しますがね。
上の写真は1948年に金陵女子大学の学生たちが行なった仮装舞踏会の様子。
女子学生たちが漢服を着て踊っています。
このように歴史的にみると、すでに1948年に漢服はコスプレ衣装になっていたことも知ってほしいです。
コスプレ外出をして撮影するだけでなく、漢服を漢族のものとして身近にしたいなら、漢服を着て職場に行ってほしいです。
本当の民族衣装というのはいつまでも着ていたものです。そのかぎりで旗袍は民族衣装になれました。しかし、日本の着物も中国の漢服も民族衣装になっていません。
残念ながら、私たちの世界は洋服以外のすべてがコスプレ衣装になってしまったのです。ですから、対立すべきは満族でも旗袍でもなく、洋服の排除に向かうべきです。それが本当の漢服を着る意味です。漢服も旗袍も着物もチマ・チョゴリもアオザイも…。
そこまで本気で漢服を着れる人は中国人にいますか。
結論
中国は多民族国家です。代表的な民族衣装を一つ選ぶということは無理にしなくていい、そんな気がするのです。
洋服の典型とされるスーツは世界中の人たちが着ていますけど、もともとはイギリスのたった一つの農村で着られていた衣装だったんですよね。民族衣装にすらなっていなかったわけです。
中国は逆にいろんな衣装を許すことで多民族国家ならではなの多様性を示していけばいいんだと思います。
競争社会は過酷かもしれませんが、他方、「National geographic」というテレビ番組でいわれていたように、中国はこれまでの先進国が手をつけられなかった環境問題に着手できた唯一の国です。
私は隣の日本から見守るくらいしか力がありませんが、中国は人類が進めなかった道を進みはじめています。それを肯定的に捉えれば民族を超えたもっと大きな問題に取り組んでいるんだと、考えることはできませんか。
漢服ライフを楽しむレイレイ
ぱおつも、2020年8月頃から漢服に興味をもちはじめ、淘宝網(タオパオ)で漢服を買いました。
漢服ライフを楽しむには、アイテムにもこだわりたいところです。
ジャケットを5着、スカートを1着買って、上下の組み合わせを楽しんでいます。また、いくつかの簪と靴とハンカチーフも買いました。
やはり、髪型を色々変えられるのが楽しいですね。髪型には長い鬘(かつら)、それに加え生花や造花の付いた簪が中国ではとくに人気。
ハンカチーフは口許を覆うためで、時節柄マスク代わりになるのでしょう。漢服にマスクの組み合わせは時代劇ドラマにもよく出てきます。
漢服にはまったレイレイのアルバムはこちらをご覧ください。
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