ラインと構成要素からみた旗袍の原型を検証

深衣といわれるワンピースのイラスト。上下を縫い合わせた衣服です。 定義と研究
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よく言われますが、旗袍の源流は袍服にあり、袍服は深衣にルーツをもちます。これは正しいでしょうか。

ワンピースかツーピースかの区別に注目しがちですが、旗袍の構成要素からみると、チャイナドレスの源流を深衣にまでさかのぼるのには無理があります。

このページは裁縫と衣服(モノ)の関係をあつかうので、中国服装史よりも中国衣服史として読んでいただければ幸いです。

ぱおつ
ぱおつ

旗袍だけでなく、漢服の源流を深衣に求める人もいるので、衣服の歴史はややこしく、また面白いところ。

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旗袍の源流をさぐるポイント

古代中国の衣服は、ワンピースの深衣や袍服と、ツーピースの胡服に大別されます。

言葉のうえでは、旗袍は袍服の一種で、袍服はワンピースです。そこで旗袍の源流をさぐるには、袍服系統、つまりワンピースをさがのぼっていくのが無難です。

しかし、よく深衣にまで起源を求める識者たちがいるのですか、はたして、これは正しいのでしょうか。

旗袍の源流をさぐるポイントは、ワンピースかツーピースかの区別よりも、旗袍の構成要素4点が大切です。とりあえず、区別と要素の2点から考えてみます。

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旗袍の源流は深衣か

黄能馥・陈娟娟编着『中国服装史』中国旅游出版社(北京)、1995年、31頁。

旗袍をはじめ袍服は臀部(ケツ)を覆う上衣だと考える説がありますし、これが一般的だと思います。すると、胡服のようなツーピースの上衣と区別が付きません。ワンピースとは、ツーピースの上衣にすぎないと考えれば、上衣だけを考える必要があります。

他方で、旗袍は清代にツーピース、民国期にワンピースになりました。つい、袍服はワンピースだと思ってしまうのですが、袍服自体には、ワンピースである義務もツーピースである責任もありません。

このように考えると、最近流行っている漢服は、闇雲にワンピース旗袍との区別化を図りたいがために重ね着を楽しんでいるだけだと思ってしまいます。重ね着をすれば、とりあえずツーピース以上になるからです。といっても、漢服自体が洋服のように「何でもあり」という歴史をもっていますから(つまり、時代や地域によってバラバラ)、多様であって良いんですけど。

20世紀以降の旗袍(近代旗袍)の裾が垂直に下りていて、旗袍が袍服の一種である以上、同じ袍服でも、旗袍の起源を深衣や曲裾袍(Aライン)に求めるのは間違っていると私は思います。旗袍の起源は、裾が垂直に下りていた直裾袍(Hライン)が源流となるでしょう。

旗袍の起源が深衣になる条件

旗袍の起源が深衣になる条件は、衣服のボディラインにあります。

以上のことから、次のように結論します。

  • 清代旗袍…Aラインだったことから、源流は曲裾袍(つまり深衣)
  • 近代旗袍…Hラインになったことから、源流は直裾袍(つまり深衣じゃない)

黄能馥・陈娟娟编着『中国服装史』中国旅游出版社(北京)、1995年、113頁。

黄能馥・陈娟娟编着『中国服装史』中国旅游出版社(北京)、1995年、113頁。

ただし、こう考えても問題が残ります。

深衣はロング・ローブなのですから、曲裾袍であろうと直裾袍であろう構わないとする説です。

曲裾袍型深衣と直裾袍型深衣とに分ければ、旗袍の起源が深衣になる条件はなくなり、起源は深衣となります。

それでも私は、深衣を旗袍の起源と求めることに反対です。

旗袍の構成要素を思い出してください。

旗袍の構成要素

旗袍の形が清朝期からどれほど変化しても、変わらなかった点があります。これを普遍的な要素といいます。

旗袍の構成要素は次の4点。チャイナドレスの特徴です。

  1. 立領(チャイナカラー)
  2. 大襟
  3. スリット
  4. チャイナボタン

最近では、4つ目のチャイナボタンを横ファスナーに代替することが増えています。

また、大襟を装飾にして着脱を後ろファスナーにしたものが増えています。

結論

次の記事では、大襟とスリットは、深衣、曲裾袍、直裾袍、少数民族や遊牧民の袍に存在したとみなせそうでした。

でも、今回もみてきたように、深衣や古代の袍服には、立領がありませんでした。また、チャイナボタンもありませんでした。

清代の途中から、立領もチャイナボタンも確認できますが、これをさかのぼって、深衣に旗袍の源流を求めることはできないでしょう。

定義と研究
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この記事の著者
ぱおつ

旗袍好きの夫婦で運営しています。ぱおつは夫婦の融合キャラ。夫はファッション歴史家、妻はファッションデザイナー。2018年問題で夫の仕事が激減し、空きまくった時間を旗袍ラブと旗袍愛好者ラブに注いでいます。調査と執筆を夫、序言と旗袍提供を妻が担当。

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