マギー・チャンのチャイナドレスがとてもセクシーなことで有名な映画「花様年華」。
この記事では「花様年華」に登場するマギー・チャンのチャイナドレス(旗袍)を紹介します。後半では映画のもつ3つのノスタルジーに関するコラムを抄録します。
映画「花様年華」でトニー・レオンがわずか3セットのスーツを着ただけですが、マギー・チャン(張曼玉)は26枚のチャイナドレスを着ました。
1960年代前半の香港を舞台にした「欲望の翼」でスー・リーチェン(蘇麗珍)やミミは洋服を着る選択肢がありました。
でも1960年代後半の香港を舞台にした「花様年華」のスー・リーチェンに洋服の選択肢はありませんでした。彼女は既婚のキャリアウーマンになっていて、船会社で秘書を務めていたからです。
「花様年華」でマギー・チャンがみせたチャイナドレス
なにぶん15年ほど前の DVD なので画質が悪いですが、少し明るめに加工しています。
赤いコートを着た場面ではこれがマギー・チャンかという笑顔もInstagramでは好評でした😊
ギャラリー形式にしているのでサクサクと見てください。
マギー・チャンと旗袍が「花様年華」でみせた3つのノスタルジー
この映画『花様年華』で蘇麗珍を演じた マギー・チャン(張曼玉)は一つの確固たる役割を作りました。
『花様年華』は1920年代上海を1960年代香港に再現したものです。
蘇麗珍という登場人物、マギー・チャンという女優がチャイナドレス(旗袍)という衣装を着ることで時間と空間の移動が実現しました。
以下ではこのコラムの『花様年華』に関する部分を訳し、『花様年華』の再現について私見も交えました。
とりあげるコラムの著者はQiu Su-Ling、出典元とタイトルは「YESASIA: YumCha! – Maggie Cheung – Taking Chinese Modernity to the West – Feature Article」です。
マギー・チャンの女優経歴を述べていますが、このあたりはカット。
花様年華:周慕雲と蘇麗珍
『花様年華』は1962年香港を舞台にしたものです。
新聞記者のチャウ・モウワン(周慕雲/梁朝偉飾) と海運業者秘書のスー・リーチェン(蘇麗珍/マギー・チャン飾)の2人の主人公が同じ日に香港のアパートの隣室に引っ越しました。
彼らは、1949年の新中国成立時に接収のために本土を離れていた移住上海人たちグループに加わりました。
毎晩、二人は同じ階段を降りて夕食のために麺を買いに行きます。
このとき擦れ違ってもお互いのことをほとんど認識しませんでした。
最終的に、彼らは自分の配偶者どうしが不倫関係にあることに気づき、恋に落ちはじめながらも、自分たちの出来事に抵抗します。
マギー・チャンの着たチャイナドレス
タイトなチャイナドレス
マギー・チャンの着るチャイナドレス(旗袍)は、文字どおり長いガウンのことで、丈の長いタイトな密着性があります。
映画「花様年華」ではチャイナドレスの繊細さとフィット感のあるシルエットによって、マギー・チャンの均整のとれた体つきがより精巧に見えました。歩く姿勢が生き生きとしていましたね。
とくにウォン・カーウンァイ監督はマギー・チャンの背中からスローモーションレンズを使って、女性ならではの美しさを表現しています。
スー・リーチェン(蘇麗珍)のような冷たい香りが凝縮した女性が首から裾まで26枚の花が集まっているチャイナドレスにびっしりと包まれても、じっさいに身に着けていたのは自分の秘密と深い感情でした。
シェリー・クレイサーは次のように書いています。
「マギー・チャンは身体を表現力のある楽器として使うことができ、それは顔を使うときと同じ。彼女の姿勢、歩くタイミング、戸枠を撫でる仕草がすべて深く触覚的な世界をかもしだす」(Shelly Kraicer, “Time Blossoms, Time Fades”)。
ウィリアム・チャンのかもし出した1960年代
美術指導を担当したウィリアム・チャン(張叔平)はこのように「花様年華」をデザインしました。
「花様年華」でウィリアム・チャンはチャウ・モンワンやスー・リーチェンに1960年代を重ねたというより、チャンが1960年代と思う雰囲気を作り出しました。
この雰囲気のなかに身をおいて、すれ違うことも無性に打診することも、また感情を抑えたりもがいたり感傷的になったりすることも、まさに1960年代のヒトとコトであると私は感じました。
ウィリアム・チャンは「花様年華」でマギー・チャンが着るチャイナドレスを自分の秘蔵していた高級布地から委託生産しました。
70歳を越えた定年退職の上海の老師匠を説得して、マギー・チャンのためにオーダーメイドして作ってもらったようです。香港の老デザイナー(朗光時装)も参加しています。彼らベテランが駆使した天衣無縫の技術は布地と同じくらい貴重だったはずです。
「花様年華」の旗袍で参考にした映画
旗袍の立領(チャイナカラー)と長いスリットのある伝統的な中国のチャイナドレスは、これまでにもたくさん映画に登場しました。
「花様年華」の旗袍をデザインするために、ウォン・カーウァイ監督とウィリアム・チャンは1940年代・1950年代の古典的なファッション映画「春蕾」「顔思」「歌姫の歌」などを7本も鑑賞しました。
そして、300枚近くの断片を切りました。全部女優がチャイナドレスを着ていた断片です。
マギー・チャンと旗袍
『ロアン・リンユィ』と『花様年華』の旗袍
映画『ロアン・リンユィ』で、マギー・チャンは旗袍(チャイナドレス)を進歩的な中国人女性として表現しました。
1920年代と1930年代にみられた近代中国の女性性と優雅さを再現たのです。
映画『花様年華』でも同じことをいえます。
つまりスー・リーチェン(マギー・チャン飾)は進歩的な中国人女性としてチャイナドレス(旗袍)を着たのです。
この映画でマギー・チャンが演じた人物は、過去から再現した「現代の」時代や映像に映る人物です。
ただし、『ロアン・リンユィ』は歴史上の人物で、チャイナドレスしか着ていない時代の人でした。ですから映画でも必ず着なければなりません。
他方、スー・リーチェンは平凡な女性です。何を着てもいいです。
たぶん、ウィリアム・チャンはチャイナドレスのシーンを撮りたかっただけなのでは…!?(笑)
チャイナドレスという伝統的な服装は含蓄があって、挑発的な美しさもあります。劇中で表現されます。美しいです。この点をウィリアムは1960年代香港として描きたかったのではないでしょうか。
プレゼントされるはずだった旗袍
撮影が長引くにつれマギー・チャンはだんだん美しい旗袍夢中になっていきました。
マギーは記念として旗袍を残したいと思って、ウォン・カーウァイに1セットか2セット残してもらえる約束をしました。でも映画の撮影がかなり長くなったので、マギーが気に入る旗袍を探すのも難航。
結局、マギー・チャンは旗袍を記念にもらうという願望は実現しませんでした…。
映画『花様年華』の時間と空間
映画『花様年華』でスー・リーチェンやチャイナドレスには時間と空間が重層しています。
時代を超えて香港の現代性が出現するノスタルジア(回顧的)の痕跡としてマギー・チャンは機能しました。
しかし、どんな役割をこれから担うことになろうとも、すでに彼女は国内外で熱烈なファンを獲得しました。
ふつう、映画では歴史の再現を現代から過去の1点にむけて行ないます。
でも『花様年華』は公開時点の2000年(現代)から1960年代にむけるだけでなく、もう二つの時間と空間が交錯しています。
- 1920年代から1960年代に継承された
- 1960年代から1920年代を回顧した
ですから、『花様年華』は懐古的な映画であるとともに回顧的な映画ともなっているわけです。
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