今回は《ものづくりをとおして世界を観察する小さな虫》と自称するSong Maochong(松毛虫)さんの個人コレクションから、ビンテージ旗袍をご紹介します。
「松毛虫」…本名かなぁ…!?
お名前が気になるところですが、とにかく彼女自身の所有する旗袍2点と友人から借りた1点とを紹介します。
Songさんはビンテージ旗袍に詳しいので、ご自身の分析も参照します。
Song Maochong(松毛虫)さんのビンテージ旗袍
Song Maochongさんは、インスタグラムで次の紅色旗袍から個人コレクションを披露していくと語っています。たまにチェックしましょう。
1940年代初頭の紅色旗袍
この旗袍から個人的なコレクションシリーズをはじめます。これは1940年代初頭の作品で、1930年代後半のミッドハイトの立領とワイヤー構造のハードなフロッグボタンを継承しています。これらにマッチするスタイルのフロッグボタンと組み合わせた、絶妙でシフティなシルクベルベット生地は、作品を見るすべての人を静かに魅了します。https://www.instagram.com/p/CTN70_oAINL/
フロッグボタンはチャイナボタンのことです。引っ掛けて留めます。
立領にワイヤーが入ることがあるとは知りませんでした。ワイヤーを入れたら型崩れしにくいです。1940年代の製作当初に設置したかは分かりませんが、ワイヤーを採用するのは、かなり斬新です。
1940年代、旗袍はまだ滑らかで直線的なシルエットでした。曲線的で形に合った「セクシーな」ドレスを表現する現代旗袍を一般の人々が認識する方法と違います。https://www.instagram.com/p/CTN70_oAINL/
1940年代の旗袍はもっとボディコンシャスになっていたと思っていましたが、フィットするかしないかは製作者や着用者の好みによって違っていたのでしょう。
私は旗袍の歴史を時代ごとに追いかけているので、先端に目を向けがちです。だから、1940年代をボディコンシャスの時代だと思っていました。
しかし、Song Maochongさんの写真を文章を拝見すると、ボディコンシャスとは一概に言えないことが分かりました。一般人が現代旗袍を見る視線と、1940年代の一般人が民国旗袍を見る視線の違いを端的に説明しています。
1930年代後半のミントグリーン旗袍
次の作品は1930年代後半のミントグリーン旗袍です。
カメラでは正確に捉えられない最も美しい緑色をしています。ミッドハイトの立領、かなり短い袖、マキシ丈、低いスリット、ストレートなシルエットなどは、1930年代後半の典型的なスタイルです。不思議な形をしたフロッグボタンは、当時のチャイナドレスの特徴的な装飾でした。1950年代以前のマンダリンカラー(立領)のもう1つの注目すべきディテールは、だいたいのパイピングが領とドレスとをシンプルなホイップステッチでつないでいたことです。領の下部に1つのトリムと1つの配管があります。この機能によって、クリーニングや交換が必要なときはいつでもカラーを簡単に取り外すことができました。https://www.instagram.com/p/CTQg-MQjrHS/
トリムやパイピングは布の解れを防止するので、これらがあると、衣服の端か接続部分のどちらかと考えられます。旗袍には前者だけでなく後者の事例もあったと、Song Maochongさんは明記しています。
首もとの汗は衣服にダメージをかなり与えるので、立領の付け替えは旗袍のもつ一つの知恵です。また、歴史を継起的にみると、清代袍服は長らく円領(盤領)でしたが、清末になると立領が登場しました。これには固定立領と付け替え立領の両方があったようです。
いずれにしても、民国期から1950年代まで、このような付け替え領が存在したことは、人類の知恵でもありました。
ベージュの旗袍(友人の旗袍)
ぱおつのコメント
1940年代初頭の紅色旗袍
私の大好きな紅色。
しかもベルベットなので質感があります。この色を生地にした旗袍は最強です。
そして薄い黄色の草とピンク色の花がデザインされています。今のプリント柄よりも質感があってオシャレです。
旗袍の構成要素を見ていきます。
- 立領…形は中円領で、高さは前が3cmで後は5cmほど。裏地にピンクをもってきているのが可愛いです。
- 大襟…ラインは中円襟か小円襟。
- チャイナボタン…立領に1個、大襟に1個、腋窩に1個、そこから均等に8個ほど続いています。
- スリット…見えませんが、腋窩のチャイナボタンから下へ7個目か8個目がスリットの上限かと思います。
パイピングは生地に合わせた紅色と薄黄色を縫い合わせて1本。
袖は平肩連袖の半袖(かなりノースリーブに近い)。
1930年代後半のミントグリーン旗袍
つい見過ごしがちな付け替え領を説明してくれて感謝。
全身写真を見ると小さい双子の花柄が旗袍の一面に咲いていることが分かります。1930年代にはドット柄の旗袍が一部に流行しましたが、たんなる丸印(ドット)じゃない点が素敵。
旗袍の構成要素を見ていきます。
- 立領…Songさんはミッドハイトと仰っているのですが、かなり高そうに見えます。尋ねたところ、4.5cmから5.0cmの高さだそうです。形は小円領。
- 大襟…ラインは小円襟。
- チャイナボタン…立領に1個、大襟に1個、それ以外は見えません。
- スリット…高さは膝頭くらい。旗袍の丈が長く、Songさんはマキシ丈と書いているので、お掃除旗袍ですね。ですので、スリットはかなり深く入っています。この旗袍を現物で持っているのがカッコいいです。
パイピングは生地と同色の緑色。
袖は平肩連袖の半袖。
ベージュの旗袍(友人の旗袍)
旗袍の構成要素を見ていきます。
- 立領…形は小円領で、高さは前が4cmで後は5cmほど。
- 大襟…ラインは小円襟。
- チャイナボタン…立領に1個、大襟に1個他は見えません。
- スリット…これも見えません。
パイピングは生地と同色のベージュ。
袖は平肩連袖の半袖。肩縫線なし。
生地がベージュだと少し若く見えます。生地全体に広がるプリント花柄が控えめなので、余計にそう思えるのかもしれません。
おわりに
私は旗袍を着ている女性と女性が着ている旗袍を眺めるのが好きです。
このブログを作ってから、旗袍女性を何人もとりあげてきました。
その過程で、私は自分がとりあげたい旗袍女性を選ぶ基準を一つ知りました。旗袍と溶けあった女性の笑顔です。Songさんも旗袍を着た笑顔が素敵です。そして、笑顔の女性を包む旗袍も素敵です。
Song Maochong(松毛虫)のインスタグラムはこちらです。
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