旗袍の構成要素のうち、立領(チャイナカラー)を説明しています。
ひらがな表記は「たてえり」。
ファッション業界では、よくチャイニーズ・カラー、マンデリン・カラー、スタンディング・カラー、スタンド・カラーなどといいます。英語で「standing collor」「Chinese Collar」「mandarin collar」など。
チャイナ服によく見られたため、このように呼ばれます。「マンデリン」は中国清朝の官僚たちをさし、官僚たちの領が立領だったことから、西洋人が名づけました。
旗袍の立領(チャイナカラー)
立領とは、そのまんま、立った領(えり)のことです。
首もとでボタンやフックを使って留めるものが一般的です。首に沿って真っ直ぐに立った幅の狭い領のことで、前は首の正面で突き合わせます。
ふつう、旗袍では、布をあてがう縁どり(パイピング)が施されています。上の写真の立領はピンク色のパイピングです。
次の黒い立領は、生地にリネンを使っています。
立領(チャイナカラー)の種類
立領(チャイナカラー)の種類は次です。
チャイナ服のハンドメイド作家やチャイナドレス製作者たちによって立領の名前や区別はさまざま。
便宜上、立領の基本形と派生形に分けます。
立領の基本形
馮綺文『旗袍製作』の「方角立領」は揚成貴『中国服の作り方全書』で「方領」です。
円角立領はもう少し細分できます。
立領の派生形(1):円角立領(えんかくたてえり)
上の立領イラストの2点目「円角立領」。
CN-S(中国語簡体字)で「圆角立領」、CN-T(中国語繁体字)で「圓角立領」と書きます。
この立領はカーブの度合いから3つに分けられます。
カーブが強い方から、大円領(大円角立領)、中円領(中円角立領)、小円領(小円角立領)となります。
私のイラストが下手で、大円領と中円領をうまく区別できませんでした。ただ、複写元のイラストも大中の違いは曖昧です!(と強調)
大円領と中円領にチャイナボタンをつけるとしたら、首元に1つになります。小円領ですと1~3つ。
民国期中国で小円領が1930年代、香港で大円領が1950年代によく使われました。タイトでボディコンシャスな香港旗袍とセットでした。
立領の派生形(2):「元宝領」と「鳳仙領」
馮綺文『旗袍製作』は「元宝領」(元寶領)と「鳳仙領」をはっきり分けていません。
揚成貴『中国服の作り方全書』は次のように二つに分けています。
どちらもかなり高めの立領です。
イラストに描いたように「鳳仙領」は高い立領を前に折ったイメージです。
犬の耳やベロのようで、私は苦手…。
セパレートタイプの立領
民国期の旗袍では、一部に立領を取り外しできるものがありました。このセパレートタイプを再現したのが次の写真。
立領だけが旗袍本体から埋没している感じになっています。一体化していないわけです。
立領の取り外し(付け替え)のメリットとデメリットをまとめます。
セパレートタイプのメリット
- 汚れても外して洗える
- 暑い季節には外して着れる
- 高さの違う襟をいくつか作ってバリエーションを楽しめる
- より立体感が出る
- 座ったりしゃがんたりする時、後ろ首が引っかからない
普段着向けです。
今は作れる人も少なく、手間がかかる為、オーダメイトでしか手に入れません。
セパレートタイプのデメリット
- デメリット : 作るのに時間がかかります。ミシンは使えないので手縫いです。
取り外しのできる立領をもう1点だけご紹介。
立領の高さ
立領の高さは3.5cm以内が多いといわれますが、その多くは漢服か、女性の旗袍に類似した男性の長衫の場合です。
20世紀中期の香港で見られた旗袍のように、首全体を覆う10cmほどの高さもありました。とくに後方です。
次の写真は1960年代香港を描いた映画「花様年華」の一場面です。突き合わせはホックやチャイナ・ボタンで留めることが多く、形を整えるために芯材(カラー)が使われたこともありました。
次の場面は、レベッカ・パンがウォン・カーウァイ監督「花様年華」についてインタビューを受けているところ。
当時のチャイナドレスというものは…という前振りから、10センチとのこの場面。
立領の別名
立領には多くの別名があります。
- マンダリン・カラー(mandarin C.;清朝官吏領)…もともと中国官吏の服に用いられていた領
- バンド・カラー(band C.)…バンド状のカラー
- マオ・カラー(Mao C.)…毛沢東の名前から
- ミリタリー・カラー(military C.)…軍服に用いられた
など。
フランス語では、官吏服のカラーという意味でコル・オフィシェと言います。ファッション辞典では、チャイナ・カラーをマンダリン・カラーと英語で呼ぶ違和感について全く触れていないので、ここで少々立ち止まって用語の歴史性を考えます。
立領(チャイナ・カラー)をマンダリン・カラーという理由
まず、黄土龍『中国服飾史略』(新版、上海文化出版社、2007年)によると、清朝前の王朝であった明朝期の女性庶民の衣服にも立領が用いられていました。
中国の立領は明朝期にはすでに用いられていたのですから、マンダリン・カラーという≪わざわざの呼称≫には、既述の通り清朝官吏の使用していたことが重要となります。
換言すれば、官吏・役人同士の文化交流によって作られた英語側からの造語です。
次に、イギリス外交官であったジョージ・マッカートニー一行が、清朝天子の乾隆帝に謁見を申し込んだとき、彼は内衣から出した折領のシャツを着ていました。中にはその領を折らずに立てている清朝官僚もいます(下図で左から二人目)。
状況証拠は少ないのですが、イギリス外交官たちは清朝官吏の立領を際立ったものと感じたでしょう。
おそらく、マンダリン・カラーは、大英帝国が清朝と接触した18世紀後半から19世紀前半の間に形成された英語だと考えられます。
西洋人が重視する旗袍の構成要素はどれか
英語圏の文献やブログで旗袍に関する記事を読んでいると、旗袍の構成要素の4点をふまえていないものを旗袍や長衫ということがよく分かります。
西洋人が旗袍の構成要素で最も注目するが立領(マンダリンカラー)です。逆に重視しないのが大襟です。大襟を設置しない「旗袍」をインスタグラムなどでよく見かけます。
大襟がなければ、チャイナボタンの使い道は立領だけになるので、チャイナボタンも省かれることがあります。チャイナボタンは西洋人が重視する立領にも使いますが、これをカギホックで代替すれば、万事OK。
胸部中心に設置する水滴のような襟は乳房の露出度を高めるコスプレ技の一つですが、西洋人が大襟を重視しないことも影響しているかもしれません。あと、大襟よりは水滴襟のほうがコストは低いでしょうし。
立領の関連リンク
- チャイナカラーのブラウス : 仕立て屋の孫娘 : 母から頼まれて作ったブラウスの紹介。簡単な制作工程の紹介と写真。
- シャツ・チャイナ服の作り方 スタンドカラーの縫い方 : 手作り服と型紙USAKOの洋裁工房から。字幕もあって丁寧。
旗袍の構成要素
旗袍の形が清朝期からどれほど変化しても、変わらなかった点があります。これを普遍的な要素といいます。
旗袍の構成要素は次の4点。チャイナドレスの特徴です。
最近では、4つ目のチャイナボタンを横ファスナーに代替することが増えています。
また、大襟を装飾にして着脱を後ろファスナーにしたものが増えています。
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