劉瑜『中国旗袍文化史』:チャイナドレスの文化史の名著

4.0
書籍・図鑑
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本書は対象を旗袍に限定し、旗袍の歴史を5つの時代にわけ、都市文化や民族文化、ジェンダーや映画文化などと重ねて述べた本。

冒頭の《「旗袍」ことばの指示問題》が圧巻。

ここだけでも「チャイナドレスの文化史」として最高水準に到達しています。旗袍的新故事で力説している《言葉と物(衣服)を分ける》基準が、本書の著者にはあります。

各時代の袍服や着用者がカラー写真や白黒写真で紹介されているうえ、掲載資料数が多いのがうれしいです。

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刘瑜『中国旗袍文化史』

本書は、各時代の服の形を領・襟・袖・裾などに分けて細かく述べている点が特徴的です。

著者がわける5つの時代は次のとおりです。

  1. 清代以前
  2. 清代
  3. 民国期
  4. 戦後(現代)
  5. 当代

5つの時代をそれぞれ民族や地域の交流から描いています。ひろく旗袍と親しまれてきた袍服がどのように形を変えてきたか、また、どのような人たちが着ていたか、そういう疑問に答えてくれる本です。

また、それぞれの時代の旗袍の特徴が一覧表で書かれていたり、各時代の旗袍の典型例をイラストでまとめていたり、視覚的にわかりやすい工夫がなされています。

たとえば、第2部「北京編」の終わり、65頁から72頁まで、「北京編旗袍図録」として18点のイラストがあります。各イラストには袍服の形や付属品の説明つき。

刘瑜『中国旗袍文化史』上海人民美术出版社、2011年、69頁。

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批評

袍服をトータルにとりあげた作品ですから、精力的な印象を受けました。時代区分もわかりやすい設定をしているので、旗袍の歴史を全体的にイメージしやすいです。

世界的に流行をみせた2000年代のチャイナドレスとコスプレーヤーの関係がまったく触れられていなくて残念。もはや、コスプレのチャイナドレスは旗袍を構成する4要素のうちチャイナボタンと大襟を省略する傾向にあり、もはや旗袍とよべません。この点について、旗袍の動揺から歴史をとらえなおす観点がほしかったです。

他方で、民国旗袍をレトロチーパオとして愛用する方も多数いらっしゃいます。こういう意味で、旗袍の時代は終わったのかどうかについて、筆者の見解を知りたかったです。

つまり、旗袍・チーパオ・チャイナドレスという言葉と旗袍の服とのズレが極端になった現代について、もう少し距離を置いて述べてほしかったところです。

序言の要約

中国の旗袍は素晴らしい伝統衣装の代表です。

まず、その定義と生成時間について、多くの論争があります。しかし、中国の長い衣装文化のなかで最も素晴らしい現象と形態の一つです。

また、旗袍は、今日の世界でもっとも知られ、尊敬されている中国衣装です。旗袍は、独特の形と装飾的な美しさだけでなく、伝統的に中国多民族・多文化のなかで継続的に融合や統合をしてきた経験をもっています。

時間の継続や性的な観点から、中国の旗袍の歴史的進化は、伝統的な中国文化の継続を具現化したものです。

また、空間の循環の観点から、旗袍は、中国の伝統文化とさまざまな外国文化が継続的に統合し具現化したものです。

中国北東部の満州やモンゴルその他の遊牧文化、中央平原の漢民族文化など、中国旗袍の歴史的進化に影響を与える要因があり、また、古代の文化、沿岸地域の商業文化、現代の開放的な西洋文化、混合植民地文化などが混在しています。

この多民族、多地域のマルチカルチャルな背景のもとで、継続的に受け継がれてきた旗袍の歴史には、時間と空間の両方に居場所をもってきました。旗袍が歓迎された地域は、北の荒野から北京、そして上海、そして香港と台湾へ、そして、最終的には中華圏だけでなく世界中に広まっていったのです。

目次

概論

  1. 「旗袍」ことばの指示問題
  2. 中国の旗袍の発展と変化〔満人袍服(入関前)、清代旗装袍、民国旗袍、香港と台湾の旗袍、現代の旗袍〕

第1部:東北編(1644年以前)―源流―山林中の狩猟と実用

  • 第1章:袍服と山林中の満人祖先
  • 第2章:満人袍服の基本形
  • 第3章:満人袍服の形成理由

第2部:北京編(1644年から1919年まで)

  • 第4章:複雑で絶妙な宮殿の袍服
  • 第5章:洋服化開始時のシンプルな袍服(1912年-1919年)
  • 第6章:清代満人の袍服の形成と発展
  • 北京編旗袍図録

第3部:上海編(1912年から1949年まで)

  • 第7章:半伝統的なシンプルな旗袍(1920年から1929年まで)
  • 第8章:技術革命下の花様旗袍(1930年から1939年まで)
  • 第9章:簡潔で現代化したファッション旗袍(1940年から1949年まで)
  • 第10章:海派旗袍の形成と発展
  • 上海編旗袍図録

第4部:港台編(1949年から1977年まで)

  • 第11章:香港編(1949年から1977年まで)
  • 第12章:台湾編(1949年から1977年まで)
  • 港台編旗袍図録

第5部:全球編(1977年以後)―多様化と記号化

  • 第13章:回復後の恥ずかしさと驚き(1977年から1997年まで)
  • 第14章:カラフルな新旗袍(1997年から現在まで)
  • 第15章:現代旗袍と現代社会
  • 全球編旗袍図録

第6部:旗袍と中国都市文化

  • 第16章:中国旗袍文化の3つの要素
  • 第17章:旗袍と中国都市ジェンダー

追記

参考文献

日本語表記/原文表記はこちらです。劉瑜『中国旗袍文化史』上海人民美術出版社、2011年/刘瑜『中国旗袍文化史』上海人民美术出版社、2011年

刘瑜『中国旗袍文化史』上海人民美术出版社、2011年

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この記事の著者
ぱおつ

旗袍好きの夫婦で運営しています。ぱおつは夫婦の融合キャラ。夫はファッション歴史家、妻はファッションデザイナー。2018年問題で夫の仕事が激減し、空きまくった時間を旗袍ラブと旗袍愛好者ラブに注いでいます。調査と執筆を夫、序言と旗袍提供を妻が担当。

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