ここに紹介するのは、2013年10月14日に買った広告ポスターです。
旗袍女子の喫煙姿を描いた満洲煙公司のものです。
作者は洗心。手持ちの本にも詳細がなく、月份牌の画家として活躍した一人とのことだけ。本でさらりと書いているだけなので、ネットで、
と検索しても、やっぱり出てきません。
以下では、ポスターとの出会いからお話しして、この広告1枚だけを使って、当時に勤務していた大学での講義で90分間を語った思い出も添えます。
旗袍女子の喫煙姿を描いた満洲煙公司の広告ポスター
先に堅苦しい、会社概要から。
満州煙公司
満州煙公司は中国大連にあった煙草会社です。
旧満州を対象とした煙草産業の調査報告書によると、満州煙草会社が日本語表記の社名のようです。おそらく満州煙公司と同一会社でしょう。
横瀬花兄七編『煙草と満洲』中華煙公司、1920年 ※リンクをクリックすると国立国会図書館デジタルアーカイブで全文が読めます。
中国中部と朝鮮半島から煙草を輸入し、大連で製造販売していたと思われます。同社のおもなブランドは「菊世界」や「ムーンライト」などでした(同42頁)。
ポスターとの出会い
その日(2013年10月14日)は、大阪府内の大学で講義がありました。
休日の授業でした。休日の授業って、学内も学外も人間が少ないので好きです。
あの日はJR住道駅に午前10時に到着。
駅前北側の広場で缶コーヒーと煙草を楽しんでいました。
休日の広場でバザー。正面をふと見ると、旗袍女子のポスターがぶら下がっています。
旗袍女子は煙草を持っています。女子とは目が合いませんでしたが、こちらのお目目は釘づけ。
そのバザー店は招き猫やレトロなポスターを販売していました。近くのおっちゃんに、「これ、ちょっと見せて」と言ってポスターを7枚ほどをめくりました。
やはり1番手前の旗袍女子のポスターが気に入ったので、買おうとしたら、おっちゃん…。隣の店主だったんですね。
「あぁ、いまトイレに行ってるよ」と仰って、なんとも牧歌的なバザーです。
ポスターの端がちょっと破れているので「500円にしてくれ」と言うつもりでしたが、「お待たせー」と言いながらトイレから帰ってきた当店のおっちゃんの顔を見て、私は穏やかな気分になったのか、表記どおり700円で買いました。
さて、仕事です。
広場の1階へ降りてタクシー。
旗袍女子の広告1枚だけを使い90分間を語る
このポスターをとりあげたのは2限目の「社会史」。
この授業では、ファッションの歴史や繊維・アパレル産業史を述べるので、このポスターがちょうど使えます。
これをタクシーで気づき、大学の教卓に着いたとき、このポスター1枚を黒板に磁石で貼りつけました。
そして、90分間、粘着して説明しました。
「なぜ、この広告ポスターは、1933年から1935年年頃にかけて日系煙草会社が旧満州で作成したものなのか」。
このテーマについて、満洲、煙草、印刷技術、旗袍の領の高さ・ボディコン性、袖つけなどから説明しました。
説明といっても、1940年代じゃなさそうだし、1920年代でもなさそうという消極的な説明だった気もします。でも、抗日戦争(日中戦争)や偽満州国建国などの軍事・政治話から、経済の話まで織り交ぜたはずと思いたいです。
すると、受講生の中国人留学生、恐るべし。
こちらは衣服を中心に説明しただけでしたが、簪(かんざし)、パーマ、口紅の色にも言及してきました。そして、やはり、このポスターは1930年代のものでしょうと援護射撃してくれたわけです。
また、別の留学生は「先生、このポスターでしょ」と、スマホで調べてくれました。「似たようなものがたくさんあるので、来週、白黒印刷ですがコピーしてきますね」と出席カードに書いてくれました。彼女が紹介してくれたサイトは、埼玉にある燕京という中国雑貨店。
ツワモノたち…。
やられた感が満杯で2限目を終えました。
今となっては、あのとき、燕京というサイトでいろいろ買っておけばよかったと少し後悔。いまはあまり営業されていない雰囲気(ホームページが古い…)。
帰宅後
この日は、私が先に帰宅して、妻のレイレイはあとで帰宅しました。
さっそく、ポスターを自慢。
すると、妻は「私、実家にたくさん持ってるのに…」。
うーん…。700円…(笑)。
喫煙女子の旗袍
さて、当時より少しは旗袍をよく知るようになったはずの2021年のいまから言えることをツラツラと。
旗袍の構成要素4点から。
- 立領…8cmほどでしょうか、かなり高いです。立領を台形と見立てて天辺より底辺が長いとみるか、ほぼ同じとみるか。長ければ大円領で、短ければ小円領です。民国旗袍には大円領が少ないので、つい小円領と思ってしまいます。みなさんは、どう思いますか。
- 大襟…首の左から首中心を経て腋窩まで、ゆるやかに円を描いているので大円襟です。だいたい、立領と大襟はセットになりやすいので、立領は大円領とみるべきかもしれません。
- チャイナボタン…白色ダイヤか模造品が立領に3点、大襟に2点あります。ボタンの紐が描かれていません。かといって、紺色の部分に穴を開けていた事例は知らないので、紐は省略されているのでしょう。
- スリット…残念ながら見えません。左脚を組んでいます。
ほかに気づいたことなど。
旗袍の生地は緑色。三角形や台形の幾何学模様を印刷したもののようです。パイピングは紺色で、立領中央と上下、大襟、袖口に設置されています。
袖つけは平肩連袖の半袖。
ダーツはなし。腹部や腋窩の皺(シワ)の状態と、そもそもダーツ線がないことが根拠です。
髪はショートで、真ん中で左右に分けています。段々畑のようなパーマをあてています。左の米神にピンクの花のブローチか。
メイクは、1930年代によくあるピンクのほっぺた。頬と眉毛下にピンクの粉を塗っていると思います。リップは紅色、眉毛は細め。
最後に、スリムだけどボディコンシャスまではいってないという、私なりの1930年代論から、やはりこのポスターは1930年代に作られたものだと、今でも思います。
ただ、2013年の10月14日、どうして「1933年から1935年までに作られたポスターだ」と断言できたのでしょう…。
謎です。
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