珍しいタイプの「広生行」広告ポスター(周柏生)

イラスト・ポスター
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このページでは、周柏生の描いた珍しいタイプの「広生行」広告ポスターを紹介して、そこに描かれた旗袍を分析します。

周柏生の略歴はこちら。

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珍しいタイプの「広生行」広告ポスター

このイラストは双子女子がテーマの有名な「広生行有限公司」(化粧品メーカー)のカレンダー・ポスターの一つです。

広生行の広告にしては双子姉妹が珍しくフケ顔です。

トレードマークや女性のヘアスタイルは古い印象。でも旗袍と靴は斬新な感じ。

とにかく、旗袍女子?(旗袍女性)の分析。

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広生行有限公司の旗袍女性

「広生行」化粧品の双子女子の広告ポスター。作画は周柏生。規格は76.7cm×47.6cm。趙琛珍蔵。趙琛『中国近代広告文化』大計文化事業有限公司(台湾)、2002年、271頁。

二人とも旗袍をワンピースに着ています。スリムなうえに腰辺りがキツめのボディコンシャス。

靴はローヒールのパンプス。左はストラップなし、右は足首にストラップあり。

緑色旗袍の女性は青色の毛をつけた扇子をもち、赤色旗袍の女性は白色ネックレスをしていて、左肩には大きな薄緑色の花ブローチ。

二人とも髪の毛はショートのパーマで、中心から左右へ段々畑が広がるような感じ。耳のところだけを盛り上げます。上をペタンコにして耳で盛り上げる点は清代漢女の髪型に似ています。

見れば見るほどよく分からん旗袍です。

左の旗袍

左の旗袍は緑地の旗袍。丈は膝下です。

袖つけは接袖に見えますが、皺(シワ)の寄り方からして平肩連袖で、長さは中袖。

左肩に縫い目のようなものがありますが、皺でしょう。右肩の似た箇所に皺があるので。数珠のような装飾がありますが、これは接袖を表現しているんじゃなくて、パイピングです。

そうすると、当時のイラストによくある、ベストを着ているようで1枚かもしれない旗袍(フェイント旗袍)かと思いきや、腹部にベストの裾を描いているわけでもありません。

このイラストどうなん?と疑いはじめたので、旗袍の構成要素4つを確認してみましょう。

  1. 立領…5cmくらいで、そこそこ高い領です。中心かどこかに、留める部分がありません。皺(シワ)を描いている点に真実追求の姿勢がうかがえますが、どうやって領を留めるんだ…!?
  2. 大襟…違和感があると思ったら、大襟が描いてありません。
  3. チャイナボタン…見える部分には一切なし。
  4. スリット…スカラップの裾(凸凹の裾)の凹みのうち両サイドをスリットといえなくもないですが、微妙。

こう見てくると、存在するのは現実味のない立領だけとなります。

この旗袍に現実味があるとすれば、着装するときに後ろファスナーにしなければなりません。少なくとも右横で留められないので。まさか左横で留めたのかは知りませんが、それなら死装束となってしまいます。

濃い緑色のビーズをまぶして、白色テープで生地端をふさぐパイピングはおしゃれですが、これはかなり幻想的なハイクオリティーが要求されます。これは作れないでしょう…。

でも意図が分かってきました。

ビーズをまぶす民国風おしゃれは、他方で清代龍袍を意識していて、身頃に昇龍かフェニックスを模しているように見えます。右の赤色旗袍のレース袖にも清代をもってきたような同じ発想が。

とにかく、右の旗袍女性を見てみましょう。

右の旗袍

右の旗袍は赤地の旗袍。丈は膝下です。左の旗袍より少し裾丈が高め。

袖つけは皺(シワ)の寄り方から平肩連袖で、長さは中袖。肘上から手首にかけて白色レースの袖を付け足しています。このように西洋素材を使いながらも、清代旗袍を引きずっていて袖がAライン。大袖になっていますね。

スリムになったりボディコンシャスになったりするだけじゃなく、この旗袍のようにレースの袖をくっつけるという物理的な旗袍の洋服化って、1920年代のほうが1930年代よりも華やいでいたかもしれません。

とりあえず旗袍の構成要素を確認します。

  1. 立領…これは10cmを越えるかもしれない勢いです。この高さで口許を開いて笑えるのが凄い…。左の旗袍と同じく、立領を留めるところが見えません。
  2. 大襟…これも同じく描かれていません。
  3. チャイナボタン…ありません。
  4. スリット…膝下から膝上まで10cmほど。

左の旗袍よりも、この旗袍のほうが旗袍の要素を少し押さえていますが、それもスリットだけ。

この旗袍が現実味を帯びるなら、やはり後ファスナーで着脱するしかありません。

結論

どちらの旗袍も後ファスナーじゃないと着脱できないことが分かりました。

1929年頃に後ファスナー装備の旗袍があった話は読んだことも聴いたこともありません。万が一あったとしても、斜線か曲線で大襟を装飾風に描いたでしょう。

どうしてこうなったのでしょうか。

作者の周柏生は、礼儀道徳をテーマにした唐装風のイラストをたくさん描いた人なので、旗袍に慣れていなかったと思います。

清代旗袍と西洋服飾を混ぜただけのスタイルになってしまって、1930年代のスリムなスタイルを見慣れていると、このイラストはちぐはぐな感じがします。それでも、フェイント旗袍よりはスリムでカッコいいかなとも思ったり…。

最後に、周柏生はしつこいくらいに旗袍全体に皺(シワ)を描いています。

皺って躍動感がありますよね。この辺を省略しないのが民国期中国のイラストレーター(画家)たちの素敵なところ。

廣生堂(広生行化粧品)

廣生堂は、1898年に香港で創業した化粧品メーカーです。1903年、上海に流通事務所を設立。1930年、唐山路に上海広生行工場をつくり、現在の上海家化联合股份有限公司(上海家化聯合股份有限公司)にいたります。

香港での現在の企業名は「廣生堂」で、今回紹介した絵葉書の「双子」を意味する「雙妹(ロ墨)ソンムイマッ)/Two Girls Brand」というブランドで長らく営業を続けています。1930年代のオールド上海をコンセプトにしたコスメや小物類があります。

詳しくはこちら(廣生堂[グオン・サン・トン] | 香港ナビ)をご覧ください。

香港の廣生堂では、こんな紙袋に入れてくれますよ。

廣生堂雙妹嚜(Two Girls Brand)

廣生堂雙妹嚜(Two Girls Brand)

と、私が香港で化粧品を買ったかのように書いてしまいましたが、実はヤフオクで買いました(笑)。

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