倫敦保險公司の旗袍カレンダー・ポスター(杭稚英)

イラスト・ポスター
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これは杭稚英の描いた、倫敦保險公司(倫敦保険会社)のカレンダー・ポスター(月份牌)です。上海義源行が代理店をしていたということでしょうか。

さて、この旗袍。

黄色地に赤色のドット柄という派手な旗袍を着たこのポスター。なかなか謎めいています。

なぜなら、1916年のカレンダーだからです。1916年頃の旗袍は、まだまだルーズだったり、そもそもツーピースを想定していて丈が短かったりと、今回ご紹介するイラストとは、かなり違うと思うんです。

いつもは単なる絵葉書・月份牌の紹介に終わる、このシリーズ。

今回は、この旗袍が1916年にありえたのか、いろいろ調べてみた結果をまとめてみます。今のところ、問題点は絞れましたが、オチはありません。

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倫敦保險公司の旗袍カレンダー・ポスター(杭稚英)

とにかく、倫敦保險公司のカレンダー・ポスターをご紹介します。

黄色地に赤色のドット柄という派手な旗袍。倫敦保險公司(倫敦保険会社)のカレンダー・ポスター(月份牌)。杭稚英(杭穉英)作。絵葉書(中国上海XXL)。

まず、左側に「一千九百十六年」と書いてあります。右には「民国五年」ですから、1916年のカレンダー。

作者

作者名に「穉英」と書いてあるので、杭稚英(杭穉英)です。ところが、杭稚英は1900年か1901年に生まれているので、このカレンダーの絵を描いたのは15歳頃のこととなります。やや無理があると思って、経歴を調べると、商務印書館に勤めはじめたのが13歳ですから、技術的にも立場的にも、十分に描ける状況にあったことがわかりました。

保険会社のカレンダー・ポスター

次に、保険会社のカレンダー・ポスターは、いつ頃によく配布されたのでしょうか。

保险月份牌:视觉语言与保险文化的合璧_中保网」によると、保険会社のカレンダー・ポスターは、19世紀の終わりに登場し、1920年代と1930年代に普及。その後、1940年代以降に衰退して姿を消したようです。上海では、1915年までに12色以上の多色印刷ができるカラー印刷機が導入されたそうですから、今回ご紹介しているカラー・ポスターも実現していても不思議ではありません。

旗袍

となると、最後は旗袍の問題。

黄色地に赤色のドット柄という派手な旗袍は、早くても1920年代後半だと思ってしまいます。1916年のポスターに、こんなワンピースのスリムな旗袍が着られていた(または描かれていた)とは思いにくいのです。

この点を検討します。

先ほどとりあげたページには、1920年代・1930年代に旗袍の美しさが主流のデザインになった、とあります。これは保険会社のカレンダーにかぎった話じゃなく、旗袍あるあるです。

この旗袍はノースリーブです。肩縫線は見えないのでわかりません。立領をしっかり描いています。大襟ではなく八字襟になっているのが、この旗袍のカッコいいところ。その分、この旗袍が1916年に描かれたことがますます謎めいてきます。

八字襟旗袍(双襟旗袍)

八字襟旗袍は、1930年代に別裁派が普及した技術だったはずで、また、杭稚英たち画家がポスターに描いていったと思うのですが、この辺の説が怪しくなってくるのかな。

とりあえず、この旗袍のパイピングを見てみましょう。

立領、身頃の上(つまり八字襟)、そしてノースリーブの端の3箇所にパイピングが描かれています。旗袍の4要素から大きく外れているのが、スリットです。見える範囲にかぎれば、この旗袍にスリットはなく、それを留めるチャイナボタンもありません。ボタンは八字襟を留める首元に1個、緑色のブローチのように存在するだけです。

ひょっとして、この旗袍は、上衣部分を八字襟旗袍として描いて、下衣部分をマーメード・ドレスとして描いているのかなと、私は思いはじめました。

残る問題

1930年代に別裁派が八字襟を普及させたとしても、開発したのは以前だったかも知れませんし、1910年代にはマーメード・ドレスが中国で知られていたかも知れません。この辺りの問題に絞れてきました。

といっても、ヨーロッパでマーメード・ドレスがデザインされたのは1930年代といわれていますし、うーん。

あ、もう一つ、忘れていました。

1916年にこの絵のような胸部の描き方があったとも、考えにくいです。乳房の強調は1930年代の西洋(というかアメリカ)から同時展開というのが、ファッション史の定番ですから…。

うーん、やっぱり、カレンダーの両側に書いてある1916年(民国5年)の印字の方を疑うべきか…。それにしても、1936年と校正ミスか印刷ミスしても、同時に、民国25年までも間違えるものかなぁ…。

あるいは、1930年代に同時代の旗袍を描きながら、カレンダー・ポスターの製作段階で、両サイドに西暦と民国暦を入れるとき、20年ほど前のデータを記す意義を考える必要があります。

たとえば、1930年代にはすでに1910年代を回顧するようなレトロブームが起きていたとか…。といっても、それなら、イラストのほうに1910年代のものを持ってきたはずですよね、カレンダーの日付が20年ほど前のものって、まったく役立ちそうにありませんから…。

この辺、ウダウダと書きましたが、残る問題を今後もダラダラと考えていきます。

イラスト・ポスター
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この記事の著者
ぱおつ

旗袍好きの夫婦で運営しています。ぱおつは夫婦の融合キャラ。夫はファッション歴史家、妻はファッションデザイナー。2018年問題で夫の仕事が激減し、空きまくった時間を旗袍ラブと旗袍愛好者ラブに注いでいます。調査と執筆を夫、序言と旗袍提供を妻が担当。

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